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コラム

2021.09.20

新型コロナ対策で利用できる資本性ローン(資本性劣後ローン)とは?

経営者にとって常につきまとう課題である「資金調達」。長引く新型コロナの経済的対策において、資金繰りに悩んでいる経営者はさらに増えているのではないでしょうか。

すでに多くの融資を受けていて、さらに融資を必要としている企業にとって救世主になるかもしれないといわれているのが「資本性ローン(資本性劣後ローン)」です。

新型コロナ対策として、2020年8月から新型コロナ対策資本性劣後ローンの取り扱いも始まっています。

今回は「資本性ローン」とは何か、そして「新型コロナ対策資本性劣後ローン」についても併せてご紹介します。

1 資本性ローン(資本性劣後ローン)は他のローンとどう違う?

コロナ禍において注目を集めている資本性ローン。他のローンと比較してどのような特徴やメリットがあるのかご紹介します。

1-1日本政策金融公庫が提供している

資本性ローンの代表的なものは、日本政策金融公庫が提供しています。

ただし、金融庁がコロナ禍による企業の資金繰りを支援するため、2020年5月に監督指針を一部改正し、メガバンクや地銀に対して資本性ローンなどの活用を求めたことから、様々な金融機関で積極的な取り扱いが始まっています。

1-2 「負債」でなく「資本」とみなされる

資本性ローンの最大のメリットは、金融機関の審査において、「負債」ではなく「資本」とみなされることです。金融機関の審査では借り入れる企業の返済能力が重要で、審査基準の一つに「自己資本比率」があります。通常の融資の場合は自己資本比率が低下してしまいますが、資本性ローンで得た融資は自己資本とみなされるため自己資本比率が上がります。このように、資本性ローンを利用することで金融機関から経営が安定していると判断してもらいやすくなるため、追加の融資を受けやすくなるというわけです。

1-3 期限一括償還

資本性ローンには「期限一括償還」という特徴があります。例えば、借入金が1億円、借入期間が5年とすると、その期間が終了する5年後に1億円を一括償還することになります。一般的な融資であれば、毎月設定された元本+利息の返済が必要ですが、資本性ローンの場合は毎月利息のみを支払えばよいので、利益が出ずに赤字になっていたとしても経営を圧迫しにくいというメリットになります。また資金繰りに余裕が生まれる分、他の融資の返済に充てていくことができるようになります。

この仕組みにより、返済期間までの間の資金繰りが大幅に改善されるのです。

1-4 劣後性という特徴

資本性ローンは資本性劣後ローンとも呼ばれます。それは「劣後性」という特徴があるからです。「劣後」とは、債権の中でも返済優先度が他の債権よりも劣ることを指しています。

例えば、借主である企業が倒産するなどした場合、他の融資や税金、従業員の給与や担保などの債権が優先的に回収され、資本性ローンの回収は最後になるのです。最後に回収できる頃には資本が残っていない可能性も高いため、金融機関としては、回収できる可能性が極めて低くリスクが高いローンなのです。このことから、基本的には金利が他の金融商品と比べて高めになっています。しかしその一方で、新たに融資をする場合には、資本性ローンによる借入金は回収の妨げにはならないともいえます。

このような仕組みは利益に応じて配当を得られ、倒産してしまうとほぼ回収できない株式と似た性質を持っているといえ、資本性ローンは会計上借入金でありながら、金融機関からは自己資本とみなされるのです。当然のことながら資本性ローンは株式ではないため、既存株主の持株比率を低下させる心配もありません。

1-5 国民生活事業と中小企業事業がある

資本性ローンには、国民生活事業と中小企業事業があります。住み分けを簡単に説明すると、国民生活事業は小規模事業者もしくは創業間もない企業を対象としており、中小企業事業は中規模以上の事業者を対象としています。

その他、中小企業事業の方が融資額は大きく、融資期間も長く設定されています。

2 資本性ローン(資本性劣後ローン)のメリット

資本性ローンは、一般的な資金調達が難しい状況を打開できる有効な方法だといえます。資本性ローンにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

2-1 無担保・無保証人

融資の際にネックとなることが多い保証人と担保の問題。その点において、資本性ローンは無担保・無保証人で借入が可能です。

2-2 追加融資を受けやすい

資本性ローンの借入金は、金融審査において自己資本とみなされます。融資審査では自己資本比率が一つの審査基準となり、資本性ローンによって自己資本比率が改善されると、融資をしてもらいやすくなります。

2-3 月々の支払い負担が少ない

資本性ローンは、最終回まで利息のみの支払いです。そのため、月々の支払い負担が少なくなります。その利息も、利益が出ていない時は低く設定されます。

このように、期限までは月々の返済に翻弄されることがなくなって、資金繰りが改善します。

2-4 借入期間が長期で設定できる

資本性ローンの借入期間は5年以上となっており、長いものでは20年という長期の設定も可能です。

3 資本性ローン(資本性劣後ローン)のデメリット

資本性ローンは無担保・無保証人で融資を受けられ、金融機関からは自己資本とみなされる、なんとも夢のような資金調達方法のように思えますが、デメリットもあります。デメリットも踏まえた上で、利用を検討してください。

3-1 あくまでも借入金である

資本性ローンの融資は、金融機関の審査において自己資本とみなしてもらうことはできますが、会計上はあくまでも借入金であり、負債に計上されます。また、当然のことながら期限を迎えれば全額返済しなければなりませんので、安易に利用することは危険です。

3-2 業績によって利率が変化する

資本性ローンの利率は、毎年提出する決算書の業績によって変化する仕組みになっています。業績が悪いときは金利が低くなりますが、良くなるとそれと連動して金利が高くなります。安定的な返済計画を立てられるというメリットでもあるのですが、そもそも金利の設定が高いこともあり、業績によっては想定したよりも多くの金利を支払うことになる可能性があるのです。

このように、融資実行後にも予算と実績を管理し、決算書や資金繰り表の提出をしなければならないという手間がかかる点もデメリットといえるでしょう。

また、融資を受けるためにも、経営革新等支援機関の作成した「事業計画書」や「資金繰り表」が必要であり、通常の融資よりも審査が厳しいです。

3-3 元金の分割払いができない

資本性ローンは、元金の一括払いが基本です。そのため、元金を分割払いすることができません。借入期間の終了後にはまとまったお金が必要となり、一気に資金繰りが悪化してしまう可能性があります。

4 新型コロナ対策資本性劣後ローン(中小企業事業)とは?

新型コロナの対策として、新型コロナ対策資本性劣後ローンが2020年8月にスタートしました。こちらも現行の資本性ローンと同様に国民生活事業と中小企業事業があります。ここでは中小企業事業について、日本政策金融公庫のH Pに沿ってご紹介します。

4-1 新型コロナ対策資本性劣後ローン(中小企業事業)の概要

新型コロナ対策資本性劣後ローン(中小企業事業)は、新型コロナウイルス感染症により経済的に深刻な影響を受けていて、関係機関の支援を受けて事業の発展・継続を図る中小企業者に対し、財務体質強化を図るための資本性資金を供給する制度です。

現行の資本性ローン(資本性劣後ローン)と同様に、

「無担保・無保証人」 「期限一括償還」「劣後性」といった特徴があり、金融機関の資産査定の際には、自己資本とみなされます。

現行の資本性ローンとの違いについては、次の章でご紹介します。

4-2 現行の資本性ローンとの違い

現行の資本性ローンと異なる主なポイントは、利用対象・利息・融資限度額・返済期間です。新型コロナ対策資本性劣後ローンは、より利用しやすくなっています。

<現行の資本性ローン>

正式名称:挑戦支援資本強化特例制度

*利用対象

・技術・ノウハウ等に新規性が見られる方

・経営多角化・事業転換を行う方

・認定経営革新等支援機関の指導を受けて新たな取組みを行う方

・中小企業再生支援協議会等の支援を受けて事業の再生を図る方等

*利率

0.45%~5.5%

*融資限度額

3億円

*返済期間

5年1ヵ月、7年、10年又は15年

<新型コロナ対策資本性劣後ローン(中小企業事業)>

正式名称:新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付

*利用対象

新型コロナウイルス感染症の影響を受けた方。ただし、次のいずれかに当てはまる方に限る。

① J-Startupプログラムに選定された方又は中小企業基盤整備機構が出資する投資ファンドから出資を受けて事業の成長を図る方

②中小企業再生支援協議会の関与のもとで事業の再生を行う方又は中小企業基盤整備機構が出資する投資ファンドの関与のもとで事業の再生を行う方

③上記①及び②に該当しない方であって、事業計画書策定し、民間金融機関等による支援を受けられる等の支援体制が構築されている方

*利率

0.5%~2.95%

*融資限度額

7億2000万円(別枠)

※別枠のため、新型コロナウイルス感染症特別貸付で融資限度額まで利用していても、追加申込み可能

*返済期間

5年1ヵ月、10 年、20 年 のうちいずれか

4 まとめ

資本性ローンは無保証人・無担保で、借入金は銀行から自己資本とみなされるため融資を受けやすくなるという特徴があり、資金繰りが悪化している企業にとって救世主になり得る存在です。

しかし、新型コロナ対策資本性劣後ローンであれば現行の資本性ローンよりも利率上限が低く設定されているものの、基本的に資本性ローンは利益が上がっているときの利率が高く、当然期限になれば全額一括償還しなければなりません。そのため、「債務超過や創業間もないなどの理由で自己資本比率がマイナスになっていて、なんとか資金繰りを改善したい」「信用保証協会の保証枠はもう使い切っている」などの状況になった時に検討、活用すべきものであるといえます。

もっと短いスパンで、定期的に資金繰りの調整が必要な企業であれば、おなじく無保証人・無担保で資金調達できるファクタリングも選択肢に入るのではないでしょうか。ファクタリングは売掛債権を売却することで資金調達をする方法なので、返済に追われることもありません。資本性ローンと併せて、検討してみてくださいね。