2022.03.04
手形割引とファクタリングの違いとは?
手形割引もファクタリングも、支払い期日よりも前に債権を現金化させる資金調達方法であるため混同されることがありますが、実は大きな違いがあります。正しく理解していないと、大きなリスクに直面することになったり、最適な活用ができなかったりするかもしれません。そこで今回は、手形割引とファクタリングの内容や違いについて解説します。自社にとって、どちらを活用する方が良いのか判断するヒントにしてください。
目次
1.手形割引とは?
はじめに、手形割引とは何かについて解説します。
1-1そもそも手形とは何か?
ビジネス上で使われる手形とは、そのほとんどが「約束手形」のことを指します。
これは、商品やサービスを受け取った企業(支払い企業)が、代金を指定の期日に支払うことを約束して発行する有価証券のことです。
支払い企業が振出人となり、手形を振り出して受取人に渡します。納入企業は受取人となり、約束の支払い期日がきたら自分の取引銀行に手形を呈示(ていじ)することで、現金を受け取ることができます。
手形を現金化できるのは、手形に記載されている支払い期日から3営業日以内(受取人と振出人の取引銀行が異なる場合は3営業日以内)です。
手形の支払期日は、一般的には30日・60日・90日・120日の期間で設定されることが多いですが、ルール上は1年以上先の設定も可能です。支払い期日は振出人と受取人の合意により決定されますので、期日については振出人である支払い企業と交渉してください。
ただし取引先が大手企業の場合は、「親事業者の振出す手形は、繊維業で90日、その他で120日以内でなければならない」という下請法(下請代金支払遅延等防止法)で守られています。不条理な条件を押し付けられてしまわないように、覚えておきましょう。
1-2手形割引の仕組み
手形割引とは、金融機関などに約束手形の買い取りをしてもらう金融サービス。支払い期日よりも前に現金化することが可能です。
利用企業は、支払い期日前の約束手形を銀行などの金融機関に譲渡します。
その際、金融機関は手数料や利息を割り引いて支払いをします。この利息のことを割引料といいます。
割引料の一般的な計算式は以下の通りです。
割引料=手形金額×年利率(手形割引率)×(割引日数÷365)
支払期日まで日数があるほど割引料は高くなります。
金融機関側からすると、手形割引は手形を担保とした融資のようなものですので、手形割引には審査があります。与信状況が悪ければ手形割引を断られることもありますし、手形割引率が高くなります。
審査の対象となるのは、手形割引の利用企業(持込人)の信用力のほか、手形の満期まで期間、手形の金額、そして手形振出人の信用力です。
金融機関が、買い取った約束手形を支払い期日に交換し、手形が決済されると手形割引の取引は完了です。約束手形を買い取ってもらったら、それで取引完了と思っている方もおられますが、その認識は少し間違っているといえます。
なぜなら、約束手形の振出人が倒産するなどによって不渡りとなってしまった場合、手形割引を利用した企業側が手形を買い戻さなくてはならないからです。
1-3手形割引の種類
・手形割引の対象となる手形の種類
手形割引の対象となる手形の種類には、商業手形、銀行引受手形、荷付為替手形がありますが、ほとんどは商業手形です。
商業手形とは売買などの商取引に基づいて振出された手形のことです。
・手形割引の依頼先
手形割引の依頼先としてすぐにイメージされるのは銀行などの金融機関だと思いますが、それ以外に専門業者に依頼するという選択肢があります。
銀行などを利用する最も大きなメリットは、専門業者より手形割引率が低いことです。一方で専門業者を利用するメリットは、銀行と比べて審査が通りやすく現金化までのスピードが早いことです。
手形割引率は金融機関や専門業者によって異なりますが、相場を記載いたしますので、参考にしてください。
都市銀行:1.5~3.0%
普通銀行:2.0~3.5%
信用金庫:2.5~4.5%
信用組合:3.5~5.5%
手形割引業者:3.0~20.0%
2.ファクタリングとは?
続いてファクタリングとは何かについて解説します。
2-1ファクタリングの仕組み
ファクタリングは、売掛債権の入金期日前に、手数料を支払うことにより最短即日で現金を入手できる金融サービス。売り上げはあるが現金が不足して黒字倒産しそう…という危機的な状況を救ってくれる方法の一つです。
利用企業は、支払い期日前の売掛金を、ファクタリング企業に手数料を引いた額で買い取ってもらいます。
ファクタリングはノンリコース(償還請求権なし)契約が基本です。そのため、もし契約後に売掛先が倒産するなどしてしまったとしても、利用企業側に返済義務はないので安心して利用できるのは大きなメリットです。
こうしたことから、主な審査対象となるのは売掛先の支払い能力となりますので、資金繰りが悪化していて融資が難しい場合にも利用することが可能です。
2-2ファクタリングの種類
ファクタリングには、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングがあります。
・2社間ファクタリング
2社間ファクタリングは利用企業とファクタリング企業の2社で行う取引です。
メリットは売掛先に承諾を得ることなく売掛債権の現金化ができることと、より早く現金化ができることです。
手数料の相場は10%~30%程度です。
・3社間ファクタリング
3社間ファクタリングは利用企業とファクタリング企業に売掛先企業を加えた3社で行う取引です。3社間ファクタリングを利用する際には、ファクタリング企業の審査に加えて、売掛先企業の承諾を得る必要があります。
売掛金譲渡の事実を売掛先に知られてしまうことと、承諾を得る分、資金調達までの時間が2社間ファクタリングよりも長くなる可能性があることを知っておきましょう。
メリットは2社間ファクタリングよりも手数料が安くなることです。
手数料の相場は、1%~10%程度です。
3.手形割引とファクタリングの違い
支払い期日より前に現金化できるという点は同じですが、手形割引は「手形」の譲渡、ファクタリングは「売掛債権」の譲渡と、譲渡する対象が異なる取引です。また、「手形割引=融資」、「ファクタリング=売買」という違いもあります。
利用するにあたって、具体的にどのような違いが出てくるのかを解説します。
3-1手数料(金利)の差
資金調達で最も気になるのが手数料でしょう。
単純にどちらが安いかというと、答えは手形割引です。
手形割引の手数料は、銀行の場合1.5%〜5.5%程度、専門業社の場合でも年5%~20%程度です。
ファクタリングの手数料は、3社間ファクタリングの場合で1%~10%程度、3社間ファクタリングの場合であれば、10%~30%程度が相場です。
手形割引には利息制限法が適用されるため年利は最大でも20%までとなりますが、ファクタリングには適用されないため、それ以上になる場合があります。
3-2貸金業法によって規制されているかどうか
手形割引は銀行などの金融機関だけでなく専門業社もサービスを提供しており、ファクタリングは専門業社がサービスを提供しています。
銀行以外の貸金業者は、利用者を守るための法律である「貸金業法」を守って営業しなければなりません。
手形割引とファクタリングはよく似たサービスのように思えますが、銀行で融資として取り扱われる手形割引には貸金業法が適用され、ファクタリングには貸金業法は適用されないという違いがあります。
3-3償還請求権(貸倒れ責任)があるかないか
手形割引とファクタリングの違いにおいて、償還請求権(貸倒れ責任)があるかないかの違いが、最も注目すべきポイントといえます。
手形割引の場合は、原則的に償還請求権が発生します。手形が不渡りになった場合は、利用企業が買い戻さなければなりません。
ファクタリングはノンリコース契約が基本となるため、償還請求権(貸倒れ責任)はありません。もし売掛先からファクタリング企業に支払いがされなかったとしても、利用企業が代わりに支払う必要はないのです。
3-4審査ポイントの違い
償還請求権のある手形割引の場合、万が一手形が不渡りになれば利用企業に買い戻してもらわなければなりません。そのため、利用企業に支払い能力があるかどうかも重要な要素です。銀行の融資と同様に利用企業の経営体力も重要視されますから、債務超過・税金保険未払い・赤字決算などがあれば審査が通らない可能性があります。
償還請求権のないファクタリングの場合、債権を回収できるかどうかは売掛先にかかっています。そのため、利用企業よりも売掛先の信用度を重視して審査されるのです。こうしたことから、手形割引を断られた企業であってもファクタリングであれば利用できる可能性があります。
3-5決算書(貸借対照表)の負債が増えるかどうか
こちらも、注目すべきポイントです。現金化後に決算書(貸借対照表)の負債が増えるかどうかで自己資本比率が大きく異なるため、今後の資金繰りに影響します。
手形割引の場合は、金融機関からの借入として扱われますので、資産も増えますが負債も増加することになります。貸借対照表上では借入金が増えることになるため、決算書の見栄えが悪くなってしまい、融資を受けることが難しくなる可能性が高いです。
ファクタリングによって売掛金が現金化されると、それは普通預金(資産)として扱われるようになり、負債は増えませんので自己資本比率が改善します。こうなると決算書の見栄えが良くなりますので、銀行からの融資が受けやすくなったり、新しい取引先の獲得につながったりするというメリットがあります。
4.まとめ
ファクタリングは欧米ではすでにメジャーな資金調達方法の一つですが、手形割引と比べると認知度が低く、知っていても正しくその内容を理解していない方も多いようです。しかし、企業によってはファクタリングが救世主となってくれる可能性もあるでしょう。
今回ご紹介した手形割引とファクタリングの違いを参考にしていただき、自社に最適な資金調達方法を検討してくださいね。